STAR*12編集長記

本は記憶の保存場所のようだ。幼い頃読んでいた本を手にした時、ふとそう思った。それまでは思い出しもしなかった過去の記憶がページを捲る度に鮮明になっていったのだ。人と本との出会いは質感や重みを通して自分の中に記憶されていくように思える。

近年、多くの媒体がデジタル化して久しいが、デジタル化して「記録」していく事と、現物を残し「記憶」していく事は全く違う。本との出会いはまだ知らない人との出会いそのものだ。名前も性格も分からない状態で徐々に相手の事が分かったり、相手を通して自分自身を知る事ができるのもどこか似ている。
今回取材した岡山県立図書館に眠る多くの本や郷土資料は、その時代を懸命に生きた人々の記憶が詰まっている。激動する時代の流れの中で、失ってしまった本や新たに見つかった本も多かったそうだ。そんな時を経て私達はこの場所に集まった本達に初めて出会い、触れ、記憶を共有する事で、この地を、この時代を、自分自身を改めて知る事ができる。

今を生きる私達と過去を生きた誰かの記憶を、今日も本は繋ぎ止めている。

※これは、2018年1月発行フリーペーパーSTAR*12号「記憶の図書」の編集長記に掲載されたものです。